介護を一人で担い、相続では不公平感を抱えていたクライアント様から、ご家族と話し合って納得できる形に着地できたとのご報告をいただきました。ご本人の許可を得て、うまくいった理由とともにご紹介します。
先日、クライアント様から嬉しいご報告のメッセージをいただきました。
ご本人の許可をいただきましたので、お名前やご家族の詳細は変更したうえで、こちらでご紹介させていただきます🙏
「争続」の一歩手前まで来ていたご家族が、話し合いによって納得できる形に着地されたお話です。同じような状況で悩んでいらっしゃる方に、少しでもご参考になればと思います。
ご相談をいただいたときのこと
ご相談くださったのは、独身女性・Aさんでした。
お母様が1年半の闘病の末に亡くなられ、その間Aさんは、ご自身のお住まいとご実家を行き来しながら、介護を続けてこられました。
お勤め先には事情を伝えて働き方を変えられたものの、その結果、人事評価が下がり、収入も減り、役職も外れることになったそうです。
一方、弟さんは育児を理由に、介護にはほとんど関わりませんでした。
お母様の遺産は、お孫さんがいるという理由から、Aさんよりも弟さんに多く渡ることになりました。
遺言書はありませんでしたが、ご家族でお母様の生前の希望を尊重し、そのように分けることにされました。
Aさんには、「介護を一人で担ってきたのは自分なのに」という思いもありました。それでも、お母様のお気持ちを尊重し、その分け方を受け入れていました。
問題が起きたのは、そのあとです。
お孫さんをかわいく思うお父様が、Aさんと弟さんへの生前贈与に加えて、今度は弟さんの子どもにも財産を贈りたいと言い出されたのです。
結果として、弟さん側の家族には、Aさんよりも多くの財産が渡ることになります。
Aさんは、ご相談のなかでこうおっしゃっていました。
「財産は弟に、負担は私に、ということなんでしょうか」
お父様からは、「自分のときも介護をよろしくね」と言われている。一方で、財産の話になると、自分は後回しにされる。
これまでの介護による負担も、仕事への影響も、なかったことのように扱われ、この先も同じように負担だけが自分に偏るのではないか——。
Aさんは、この状況にどうしても納得できず、今後どのようにご家族へ気持ちを伝えればよいのか、ご相談くださいました。
「お姉ちゃんなんだから」で済まされていませんか
Aさんのようなお話は、決してめずらしくありません。
介護の場面では、娘という立場の女性に負担が偏りやすい傾向があります。ところが、その時間的・経済的・精神的な負担が、ご家族に十分に理解されたり、相続の場面で十分に評価されたりするとは限りません。
「お姉ちゃんなんだから」
この一言で済まされてしまった経験のある方も、いらっしゃるのではないでしょうか。
実は、私自身も「お姉ちゃんなんだから」と言われて育ちました。
そして、ここが大切なところなのですが——
介護を担ったことが、そのまま相続で十分に評価されるとは限りません。
相続には「寄与分」という制度があります。被相続人の財産の維持や増加に特別に貢献した相続人が、その分を多く受け取れる可能性がある仕組みです。
ただし、寄与分として認められるためには、「特別な寄与」に当たるかどうかが個別に判断されます。介護の期間や内容、負担の程度、被相続人の財産の維持にどの程度つながったかなど、さまざまな事情が考慮されます。
そのため、長期間にわたり重い介護を担っていたとしても、当然に評価されるとは限らないのです。
(※実際に認められるかどうかは、個別の状況によって判断が分かれます。ご自身のケースについては、弁護士にご確認ください)
だからこそ、私はこう思っています。
法律上の制度だけでは十分にすくい取れない思いや負担があるからこそ、できるだけ早い段階で、ご家族で率直に話し合うことが大切なのだと。
Aさんが選ばれたのは、まさにその道でした。
私がお手伝いしたこと
Aさんは、ご相談の中で、これまでの介護の大変さや、ご家族に分かってもらえない苦しさをお話しくださいました。
まずは、これまでのご苦労をゆっくりと伺いました。
終始、淡々と冷静にお話しされていましたが、1年半にわたる介護は、仕事や日々の生活にも大きな影響を及ぼしていました。
そこで私は、介護に関わっていなかったご家族は、その大変さや負担を具体的には分かっていない可能性があることをお伝えしました。
そのうえで、介護中にどのようなことを担い、どれほどの負担があったのかを、お父様と弟さんに率直に伝えてみてはどうかとお話ししました。
また、Aさんは介護のために働き方を変えた結果、会社での評価が下がり、収入が減り、役職も失っていました。しかし、そのことについても、ご家族は十分に把握していないかもしれません。
そこで、介護によって仕事や収入にどのような影響があったのかを、できるだけ具体的な数字を使って伝えることをご提案しました。
さらに、お父様がお孫さんへの生前贈与を考えていらっしゃったことから、まずはお父様ご自身の老後に、どのくらいのお金が必要になるのかを確認することも大切だと考えました。
近隣の老人ホームの費用を調べ、将来、施設へ入居する場合や介護が必要になった場合に、どの程度の費用がかかるのかを試算して、お父様に示してみてはどうかとご提案しました。
あわせて、ご家族への伝え方も一緒に考えました。
単に「弟と平等にしてほしい」と求めるのではなく、Aさんがこれまでに担ってきた介護の負担や、仕事への影響、そして今後お父様ご自身に必要となる老後資金を、事実として一つずつ伝えていくという方向です。
そして、介護に関する記録を残しておくことの大切さもお話ししました。
介護に費やした時間や精神的な負担は、何もしなければ記録には残りにくいものです。立て替えた費用だけでなく、介護のために行ったことや仕事への影響についても、記憶が新しいうちに整理しておくことが、後々ご自身を守ることにつながります。
いただいたご報告
その後、Aさんはお母様の四十九日法要の日に、お父様と弟さんと話す時間を持たれたそうです。
Aさんが伝えられたのは、次のようなことでした。
これからお父様の老後に必要になるお金の試算額。施設に入る場合、在宅で介護を受ける場合、それぞれいくらかかるのかを調べて示されました。
ご自身が介護によって負担した費用や、仕事への影響。減った収入や失った役職についても、具体的な金額や事実として落ち着いて伝えられたそうです。
そして、それを踏まえて、お父様に介護が必要になったとき、お母様の介護のときのように、ご自身ひとりで支えることは不可能だということを話されました。
さらにAさんは、数字ではないこともお伝えになりました。
介護中に、お父様と弟さんの協力が得られなかったこと。心を込めて介護してきたけれど、その気持ちがお母様にあまり伝わっていなかったように感じて、悲しかったこと。ご自身の心の内についても、率直に言葉にされたそうです。
結果、こうなりました
お父様と弟さんは、納得してくださったそうです。
特にお父様は、お孫さんへの生前贈与をする余裕がないことを理解され、今後は、財産の扱いも介護の負担もAさんにばかり偏らないよう、Aさんと弟さんを公平に扱うことを約束してくださいました。
もうひとつ、意外なことも分かりました。
以前Aさんが弟さんに「お母様の遺産で優遇されたことをどう思っているのか」と尋ねたとき、弟さんは「わからない」としか答えなかったそうです。Aさんには、弟さんが都合の悪い話をはぐらかしているように感じられました。
ところが改めて確認してみると、弟さんは、ご自身が多く受け取ることになっていた事実そのものを、理解していなかったのです。お母様が危篤の状態だったため、弟さん自身も混乱し、十分に理解できていなかったのかもしれません。
お母様が弟さんに多く残された遺産には、お孫さんを思うお母様のお気持ちも込められています。そのため、遺産については、お母様の希望どおりにすることにされました。
その一方で、Aさんが介護のために負担していたご自宅とご実家を行き来する交通費や、お母様が食べたがったものや、欲しがったものを購入した費用については、お父様が埋め合わせてくださったそうです。
お母様の介護に加え、お母様を失った喪失感や、今回のご家族との話し合いに至るまでの経緯も重なり、Aさんは心身ともに疲れていらっしゃいました。
そのため、四十九日以降の法事については、弟さんが引き受けてくださることになったそうです。
いただいたメッセージには、こう書かれていました。
「私としては満足のいく結果となり、また父と弟とも縁を切らずに済み、心に平和が戻りました」
うまくいった3つの理由

Aさんは、その後のメッセージで、ご自身の経験を丁寧に振り返ってくださいました。そこに、とても大切なことが書かれていました。
① まず、数字と事実から伝えた
ご家族への思いが強いほど、最初から悲しさや怒りをすべて伝えたくなるものです。けれども、相手も感情的になると、話し合いが進みにくくなることがあります。
Aさんは、そうしませんでした。
まず、施設費用や収入への影響、実際に負担した金額を数字で示し、事実として落ち着いて説明されました。
特に、普段から仕事などで結論や根拠を示しながら話すことに慣れている方が相手の場合、この順番は伝わりやすかったのだと思います。最初に数字や事実を示すことで、感情的な対立ではなく、現状を一緒に考える話として受け止めてもらいやすくなるからです。
Aさんご自身も、「父の老後の費用について具体的な金額を示したことが、私の言い分に説得力を増した」と振り返っておられました。
② 相手は、悪気なく気づいていないことがある
これは、Aさんが今回いちばん実感されたことだそうです。
介護に関わっていないご家族は、悪気がなく、実際に担っている人の負担に気づいていないことがあります。
弟さんの場合も、まさにそうでした。少なくとも今回のお話では、開き直っていたのではなく、状況を十分に理解していなかったことが分かりました。
数字として見える形にしたことで、弟さんにも初めて現実が伝わったのかもしれません。
「言っても無駄」と決めつけて口を閉じてしまうと、相手が知らないままだということにも、気づけないままになってしまいます。
③ 「これからも家族でいたいから話した」と伝えた
そして、私がいちばん大切だと感じたのが、これです。
Aさんは、論理的に説明されたうえで、こうお伝えになりました。
家族のことを大切に思い、信頼していたからこそ悲しかったこと。 これからも家族として支え合っていきたいから話したのだということ。
数字で土台をつくったあとに、この一言があったからこそだと思います。
お父様も弟さんも、「責められている」ではなく「信頼されている」と受け取ることができた。話し合いのゴールが「勝つこと」ではなく「これからも家族でいること」だったことが、伝わったのだと思います。
同じように悩まれている方へ
介護を担われた方の中には、「言っても無駄だから」と、気持ちを胸の中にしまってしまう方もいらっしゃいます。
でもAさんの場合、話してみたことで、弟さんが状況を十分に理解していなかったことや、お父様ご自身の老後資金についても、あらためて考えるきっかけが生まれました。もし何も伝えないままでいたら、不公平感だけが静かに積み重なっていたかもしれません。
もちろん、ご家族の状況や関係性によって、適した進め方は異なります。
そのうえで、今後の話し合いに備える方法のひとつとして、介護の内容やかかった費用、仕事への影響などを記録しておくことは、ご自身の状況を整理する助けになります。あとからまとめて思い出そうとしても、記憶が曖昧になってしまうことがあるためです。
また、親御さんの老後にどのくらいのお金が必要になるのかを確認しておくことも、話し合いのきっかけになる場合があります。親御さんを問い詰めるためではなく、これからの暮らしを家族で一緒に考えるための材料としてです。
Aさんが四十九日法要の日を選ばれたように、ご家族が自然に集まる機会を使う方法もあります。ただし、無理にその場で話し合う必要はありません。落ち着いて話せる時期や場所を選ぶことも大切です。
私自身も、そうでした
私自身も、3人きょうだいの長女として、「お姉ちゃんなんだから」と言われて育ちました。我慢するのが当たり前で、そのことを疑ったこともありませんでした。
ずいぶん大人になってから、両親にこう伝えたことがあります。
「お姉ちゃんだけど、私だって子どもだった。悲しかったし、もっと甘えたかった」
すると両親は、
「そうだったんだ。悪かったね」
と言ってくれました。
その言葉を聞いたとき、心の中に長い間残っていた棘が、すっと抜けたように感じました。
私が欲しかったのは、埋め合わせでも見返りでもありませんでした。「そうだったんだ」と気づいてもらえたこと。それだけで、長い間抱えていた思いが、少し癒やされたのです。
もちろん、気持ちを伝えれば、必ず理解してもらえるとは限りません。それでも、言葉にしなければ、相手は気づけないままのことがあります。
だからこそ私は、伝えることには意味があるのだと思っています。
Aさんへ。
丁寧にご報告いただき、本当にありがとうございました。「相談して良かった」と言っていただけたことが、何より嬉しく、今後の励みになりました。
これからは少しゆっくりと、介護でお疲れになった心と身体を休めてくださいね😊
※ このお話は、ご本人の許可をいただいたうえで、個人が特定されないよう、お名前や金額など一部の情報を変更・省略して掲載しています。
あわせて読みたい
今回の記事では、Aさんがお父様の老後にかかる費用を調べたことが、話し合いの大きなきっかけになりました。
- 実際に施設を見学するとき、どこを確認すればよいのでしょうか。私が母の施設を探した経験から気づいたことを、老人ホーム見学で見るべき5つのことにまとめています。
- また、以前にもクライアント様から感謝のお手紙をいただいたことがあります。そのときのことは、感謝のお手紙をいただきましたでご紹介しています。ご家族の気持ちを整理し、話し合いを重ねながら前に進んだ事例で、今回のAさんのお話と重なる部分もあります。あわせてお読みいただけましたら嬉しいです。
- 「相続コンサルタントって、結局どんなことをしてくれるの?」と思われた方は、相続コンサルタントって何をしてくれるの?をご覧ください。弁護士・司法書士・行政書士・税理士との違いについても、分かりやすくご説明しています。
まず、話してみるところから
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