遺言書というと、ドラマのイメージが強いからでしょうか。一人でひっそりと書いて、亡くなったあと、相続人の前で弁護士が読み上げる。そんな場面を思い浮かべる方もいらっしゃると思います。
でも、私は、家族で話し合ってから遺言書を書くことをおすすめしています。
残された家族が「なぜ?」と思っても、亡くなった人には、もう聞くことができないからです。
同じ相続コンサルタントの方から、こんなお話を伺ったことがあります。公平な分け方ではない遺言書が、亡くなってから分かった。
「お父さんは、私のことが好きじゃなかったのかな」
「なぜ、こんな遺言書にしたんだろう」
そう思いながら、引きずっている方がいらっしゃるそうです。
ところが、その話し合いが難しい。
相続について家族会議をしたことがある300人に聞いた調査があります。財産を残す方が亡くなる前に家族会議を行ったと答えた人は、15.7%でした。多くは、相続が始まってから話し合っているのです。
勇気を出して話し始めても、家族だけだと途中で止まってしまうこともあります。
今日は、家族会議の司会進行をしてきた立場から、家族だけの話し合いが止まる理由と、第三者が入ると何が変わるのかをお伝えします。

※調査:弁護士法人 東京新宿法律事務所「相続の家族会議」に関する調査(2026年5月、45〜70歳で相続の家族会議をしたことがある300人)
家族だけの話し合いは、なぜ止まるのか
実は、「家族会議をしたい」というご相談を受けることは、ほとんどありません。
ご相談を伺う中で、私のほうから「一度、家族会議をしませんか」と提案するのがほとんどです。
家族だけで話し合ったときのことを伺うと、こんなお話をよく聞きます。
声の大きい人の話になる
家族だけだと、結局、声の大きいきょうだいが自分の主張を押し通そうとする。それで、話にならない。
いちばんよく聞くのが、このお話です。話し合いのつもりが、一人の主張を聞くだけの場になってしまうのです。
昔の話が出てきて、話がそれる
子どものころの話が出てくる。話がそれていく。
「お兄さんは留学させてもらった」
「お姉さんは、嫁入りのときにお金を出してもらった」
「家を建てるとき、援助してもらったでしょう」
相続の話をしているはずが、何十年も前の出来事に話が移ってしまうのです。
相続のルールを知らないまま話している
法定相続分や遺留分が分からず、そこで話し合いが止まってしまうこともあります。
法定相続分は、法律で決められた取り分の目安。遺留分は、子どもなどに保障された、最低限の取り分のことです。
家族会議は「その場で結論を出さなくてもよい」
家族会議というと、その場で分け方を決めなければいけない、と思われるかもしれません。
でも、家族会議は、その場ですべての結論を出さなくてもよいのです。まずは、家族が話し始めるための場だと考えています。
誰かを説得したり、言い負かしたりする場ではありません。親も子も、お互いの意見を聞き合う。それが、家族会議でいちばん大事にしているスタンスです。
今決めることと、今は決めなくてよいことを分けて整理するのが、私のやり方です。
もうひとつ、大事にしていることがあります。親が生きているうちに、家族に考えを説明し、理解を得ることです。
会社や不動産を継ぐ子がいると、分け方に差が出ることもあります。理由が分かれば、均等な分け方でなくても、家族が納得するかもしれません。
第三者が入ると、何が変わるのか
家族会議に私が入ると、最初は「何? この人?」という感じだと思います。
家族会議の司会進行をサービスにしている人は、めずらしいからです。
家族会議での私の立場は、あくまで中立です。ご相談をくださった方も含めて、誰かの味方につくことはありません。私の役割は、司会と進行、そして相続について疑問が出たときに答えること。
第三者が入ると、変わることがあります。
まず、家族だけのときより、落ち着いて話しやすくなること。
次に、相続の基本的なルールを知ることで、話し合いを進めやすくなること。先ほどの法定相続分や遺留分のほか、遺言書の種類や遺産分割協議書のことも、その場でお伝えできます。
親の介護が話題になれば、老人ホームの選び方をお話しすることも。
それでも、自分の主張を押し通そうとする方はいらっしゃいます。そのときは、法律で決まっていることを、ありのままお伝えします。個別の法的な判断が必要なときは、弁護士におつなぎする形です。
そして、最終的には親御さんの財産です。最終判断は、親御さんにしていただきます。
家族会議は、1回でまとまるとは限りません。家族会議を重ねたご家族からいただいたお手紙を、以前ご紹介しました。
家族会議は、こんなふうに進めます

場所は、親御さんのお宅がいちばん多いです。1回は、90分ほど。
長い時間はおすすめしません。慣れない相続の話は難しく、疲れて頭も働かなくなってしまいます。一度持ち帰って、冷静になってから考えたほうがいいのです。
事前に、家族一人ひとりから個別にお話を聞くことはしていません。皆さんがそろった場で、一緒に伺います。
進め方は、いつも同じです。まず、親御さんのお考えを伺います。そのあと、お子さんお一人ずつに、順番にご意見を聞いていく形です。
一人ずつ順番に伺うので、全員に話す番が回ってきます。
私が同席した家族会議の、2つのケース
家族会議をすれば、必ずまとまる。そう言えたらいいのですが、実際にはこんなケースがありました。
一つは、全員が納得して、遺言書を作ったケースです。
もう一つは、話し合いが平行線のまま終わったケース。最終的にはお父様に決めていただき、遺留分を請求されることを前提に、遺言書を作りました。
まとまらなかったとしても、親の意思を遺言書に残し、その先に起こりうることに備えることはできます。
私自身も、きょうだいで話し合ってきました
私は3人きょうだいです。両親の介護は、そのつど、きょうだいで話し合って決めてきました。
医療の方針をどうするか。どの施設に入ってもらうか。誰が病院に付き添うか。一つずつ相談し、協力し合ってきたのです。
親が年をとり、亡くなっていくのは、精神的にもきついことです。そんなときこそ、きょうだいで力を合わせて乗り越えてほしい。私はそう願っています。
親御さんへ、ひとつお願い
この記事を、親の立場で読んでくださった方もいらっしゃるかもしれません。
子どもから相続のことを切り出すのは、とても勇気がいります。親の死を前提にした話なので、言いにくいのです。
ぜひ、親御さんの方から、相続について話すきっかけをつくってあげてください。
「お父さん(お母さん)の考えを、一度話しておきたい」。その一言があれば、子どもはずっと話しやすくなります。
今日、ひとつだけやるとしたら
次に家族が集まる機会を、一つ思い浮かべてみてください。お正月でも、法事でもかまいません。
もし話せそうなら、その前に、親にそっと一声かけてみるのも一つです。
「今度集まったとき、お父さん(お母さん)の考えを、少し聞かせてもらえる?」
いきなり全員の前で切り出すより、先に親に伝えておくと、話を始めやすくなります。親の気持ちが向かないときは、無理をしなくて大丈夫です。
切り出し方に迷ったら、こちらの記事も参考にしてください。
よくある質問
Q. 親が元気なうちに家族会議で決めたことは、そのまま相続に反映されますか?
生前に家族で話し合っただけでは、亡くなったあとの分け方が法的に決まるわけではありません。親の希望を相続に反映させるには、遺言書に残しておく必要があります。書き方の決まりで無効になる心配が少ない、公正証書遺言という方法もあります。
Q. 親が「まだ早い」と乗り気ではありません。
無理に進めようとしたり、感情的になったりせず、子どもだけでできる対策から始めましょう。
たとえば、親の戸籍を取り寄せて、現時点で相続人になる予定の人を確認する。分かる部分から、親の財産の一覧表を作ってみる。
戸籍は、子どもが親の分を請求できます。2024年3月からは、本籍地以外の市区町村の窓口でも、親の戸籍謄本などを請求できるようになりました。この「広域交付」は、請求する本人が窓口へ行く必要があり、郵送や代理人による請求はできません。一部、対象外の戸籍もあります。
まず、話してみるところから
「相続のことが気になっているけど、何から相談すればいいか分からない」
「いきなり個別相談って、なんだか緊張する……」
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