親が元気なうちに話しておきたい3つのこと〜父の認知症から学んだこと〜

「相続のことって、親が亡くなってから考えればいいかな…」

そう思っていませんか?

実は、これが一番危険な考え方です。相続で後悔される方のほとんどが、「もっと早く準備しておけばよかった」とおっしゃいます。

私自身、父の介護を通じて、「元気なうちに話しておくこと」がどれほど大切かを痛感しました。今日はその経験も交えながら、親が元気なうちに話しておきたい3つのことをお伝えします。

私の父は、認知症でした

少し私の話をさせてください。

父は認知症でした。でも、口が達者で、話しかければ即座に返事が返ってくる人だったので、まさか認知症になっているとは家族の誰も気づきませんでした。

「ちょっと忘れっぽくなったかな」くらいに思っていたのです。

でも、気づいたときには…

  • 文字が書けなくなっていた
  • 銀行の暗証番号がわからなくなっていた
  • お店で支払うとき、財布を店員さんに渡して「ここから取って」と言うようになっていた

しかも介護の話をしても、本人は「自分は大丈夫だから必要ない」と。話が通じない状態になっていました。

さらに、ある日、家に置いていた10万円がなくなっていたことがありました。父が使ったのだと思うのですが、何かを買ったなら家に商品があるはずです。でも、何もない。お金だけがなくなっていました。

誰かにあげたのか?騙されたのか?今でもわかりません。

「元気なうちに」がいかに大切か

このときに痛感したのが、**「元気なうちにしか話せないことがある」**ということでした。

認知症は、ある日突然なるものではありません。少しずつ進行していきます。そして、本人も家族も「まさか」と思っているうちに、判断能力が失われ、もう一緒に話し合うことができなくなるのです。

  • 財産のことを聞いておけばよかった
  • 通帳や印鑑の場所を聞いておけばよかった
  • 「これからどうしたいか」を聞いておけばよかった

そう思っても、もう遅いのです。

これは私だけの話ではなく、ご相談の現場でも本当によく聞く話です。だからこそ、元気なうちに、話せるうちに、話しておいてほしいのです。

話しておきたいこと① 財産のこと

まず一番大切なのが、「どんな財産があるか」を家族で共有することです。

親が亡くなってから、あるいは認知症になってから、財産を探し始めると本当に大変です。

  • 銀行口座がいくつあるかわからない
  • 不動産がどこにあるかわからない
  • 株や投資信託をやっていたことを知らなかった
  • 借金やローンが残っていた

私の父のケースでは、認知症が進んでから「お金がどこに、どれだけあるのか」を把握するのに、苦労しました。本人に聞いても答えられないし、通帳を見ても暗証番号がわからない。

親が元気なうちにできること:

エンディングノートや財産リストに、預貯金・不動産・保険・借金などをまとめておく。通帳や権利証がどこにあるかだけでも家族に伝えておくことが大切です。

「自分の財産を整理して家族に伝えておくこと」は、残された家族への最大の贈り物のひとつです。

話しておきたいこと② 遺言書のこと

「うちには関係ない」と思われがちですが、実はとても重要です。

遺言書がない場合、相続人全員で話し合って割合を決めることになります。でも、その話し合いがまとまらないと、最終的に裁判(調停・審判)に発展することも珍しくありません。

その結果、本人の希望とはまったく違う形になってしまうケースも多くあります。

  • 自宅を妻に残したい → 子どもにも権利がある
  • 長女に多く渡したい → 法律上は均等になる
  • 内縁のパートナーに渡したい → 法律上の相続人でないため相続できない

遺言書は、自分の意思を残す唯一の方法です。

私の父の遺言書づくりも、危なく…

実は私の父も、認知症が進む前に公証役場で遺言書を作成しました。

ところが当日、公証人の前で父が「私は認知症で(笑)、分かりませーん」と冗談を言ってしまったのです。本人としては笑いを取りたかっただけなのですが、これで一度破談になりかけました。

公証人の方も、遺言書の作成には本人の判断能力があることが大前提なので、そのような発言があると進めることができません。父はそういう冗談を言うタイプの人だったので、その場では本当に焦りました。

もし、認知症が進んでからだったら、本当に遺言書は作れなかったと思います。

「まだ早い」ではなく、元気なうちだからこそ書けるのが遺言書です。

話しておきたいこと③ 介護・認知症のこと

これが、私が一番伝えたいことです。

父のときに本当に困ったのは、「お金のこと」だけではありませんでした。

▶ 銀行口座の凍結 認知症になると、本人の判断能力がないとみなされ、銀行口座が事実上動かせなくなることがあります。介護費用を引き出したくても、本人がサインも暗証番号もわからない。家族でも勝手に動かせない。

▶ 相続手続きが止まる 相続人の一人が認知症の場合、遺産分割協議に参加できません。家庭裁判所で成年後見人を選任する必要があり、時間も費用もかかります。

▶ 不動産の売却ができない 実家を売って介護費用に充てようとしても、認知症の親名義のままでは売却できません。

そして何より辛かったのが、**「介護の話が通じない」**ということでした。

父は「自分は大丈夫」と言い続けました。本人は本当にそう思っていたのです。でもそれは、すでに判断能力が失われていたからこそ出てくる言葉でした。

金融機関で「俺の金が取られる!」と騒がれた話

もうひとつ、忘れられない経験があります。

高齢の方は定期預金がお好きで、よく預けていらっしゃいますよね。
私の父もそうでした。でも、定期預金を解約して普通預金に
移すには、本人でないとできないのです。

このことに気づいて、母と父を連れて金融機関へ行きました。
当時はまだ、父も自分で手続きできるだろうと思っていました。
事前に父にも何度も説明して、本人も「うんうん」と納得して
いたはずでした。

ところが、窓口でいざ手続きが始まると…

父は、「俺の金が取られる!」と騒ぎ始めたのです。

家族みんなで頭を下げて、本当に恥ずかしい思いをしました。

このとき初めて、「あぁ、父はもうここまで進んでいたんだ」
と痛感しました。普段の会話では気づかなかった認知症の進行を、
こういう非日常の場面で初めて目の当たりにしたのです。

窓口の方も、状況を察して配慮してくださったのかもしれません。
認知症の症状によっては、その場で口座が凍結されてしまうことも
あるそうです。そう思うと、今でもゾッとします。

幸い、父はその後施設に入居することになり、定期預金から
動かしたお金を入居金に使うことができました。間に合ったから
良かったものの、もう少し気づくのが遅かったら、介護費用
すら引き出せない事態になっていたかもしれません。

認知症は「ある日突然」進むことがあります。家族でも、
普段の会話では気づかないこともあります。だからこそ、
動けるうちに動くことが本当に大切なのです。

元気なうちに話しておきたいこと

  • 介護が必要になったら、誰がどう関わるか
  • 施設に入ることになったら、費用はどうするか
  • 判断能力がなくなったときのために「任意後見制度」を使うか
  • 通帳・印鑑・キャッシュカードの場所と暗証番号
  • 定期預金がある場合、いつどうするか

「まだ元気だから大丈夫」という時期が、実は一番の準備のチャンスです。私の父のように、気づいたときには遅い、ということが本当にあるのです。

「でも、どうやって切り出せばいいの?」

相続や介護の話を親に切り出すのは、なかなか難しいものです。

「縁起でもない」と嫌がられることも。「まだそんな年じゃない」と笑われることも。

切り出し方については、別の記事で詳しくお伝えしていますので、ぜひあわせてお読みください。

「両親に『相続』の話、どう切り出せばいい?」

家族会議という選択肢

「家族だけで話し合おうとすると、感情的になってしまう」というお悩みもよく聞きます。

ヒバリのそらでは、家族会議支援として、第三者として同席し、冷静に話し合える場作りをお手伝いしています。司会・進行役として関わることで、感情的にならずに本質的な話し合いができます。

私自身、父のことで「もっと早く、誰かに相談していれば…」と思った経験があります。だからこそ、同じ思いをする方を一人でも減らしたくて、この仕事をしています。

まとめ

親が元気なうちに話しておきたい3つのこと

① 財産のこと

 → どんな財産があるかを家族で共有する

② 遺言書のこと

 → 判断能力があるうちにしか書けない

③ 介護・認知症のこと

 → ある日突然、話が通じなくなることがある

相続は「亡くなってから考えるもの」ではありません。**「家族が元気なうちに話し合うもの」**です。

私の父のように、気づいたときには遅い、ということが本当にあります。だからこそ、今日この記事を読んでくださった方には、ぜひ「今のうち」に動いていただきたいと願っています。

「まずは話し合うきっかけが欲しい」という方も、お気軽にご相談ください😊

この記事を書いた人

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磯野 和恵

「ヒバリのそら」代表、磯野和恵(いそのかずえ)。

1970年5月生まれ。東京都練馬区出身の相続診断士。相続コンサルタント。

外資系IT企業の経理・秘書・コールセンター。
2009年 心理カウンセラー活動業務を経て、自身が経験した相続で生じる家族問題へのサポートを強く願う。

2021年に相続診断士の資格を取得。
2023年4月 相続コンサルティングオフィス「ヒバリのそら」を設立。
「笑顔の相続を迎えて欲しい」という願いを込め、家族全員が合意した遺言書を決める〝家族会議支援〟。

相続に強い税理士・弁護士・司法書士・不動産コンサルティング・ファイナンシャルプランナーとチーム連携して、本人の不安や困り事の相談に乗る。

本人も気づいていない想いや希望に、寄り添い引き出すヒアリング。

問題を見つけだし解決へのロードマップを示すことに定評があり、自身も天職とやりがいを感じている。

家族が笑顔で相続を乗り越え、助け支え合える関係で居続けられることを強く願い「みんなが笑顔になれる相続」へと活動する。